前回のブログでは、「資産移転の時期の選択に中立な相続税・贈与税に向けた検討」について紹介しました。
今回は、税制調査会で比較している諸外国の相続税の課税方式について紹介したいと思います。
諸外国の相続税の比較
海外ではどうなっているか、、というと、相続税の計算方式には3つあるといわれています。
米国式の遺産税方式、ドイツやフランスといった大陸式の遺産取得課税方式、日本の法定相続分課税方式です。
遺産税方式(米)
米国は遺産税方式なので亡くなった人、被相続人の遺産総額ベースでの計算です。
亡くなった人単位で相続税を計算して、税引き後の財産をわけるという方式です。
納税義務者はあくまでも被相続人となります。
相続についてはいわゆるプロベイド手続きを通して分配されますから、その過程の中で先に相続税相当は天引きされて相続人に分配されることとなります。
米国式では過去の贈与分もすべて集計して相続時に課税します。
ただし、基礎控除額が大きいと聞いていますからお金持ちだけの話のはずです。
この制度、実は10年前に日本でも検討されています。
政権交代で実現はされませんでしたが、民主党政権で税制改正案としてだされました。
東日本大震災の影響もあり、税制改正法案も成立せず、結果的に廃案となっていますが、財務省としては次の機会をうかがっている可能性もあります。
日本とは遺産相続の手続きそのものが違うので、相続税や贈与税についても異なるのは当然だと思います。
日本の相続税を遺産税方式へ変更するのは法制度的に難しいといえます。
遺産取得課税方式(独・仏)
ドイツ、フランスは遺産取得課税方式といわれています。
こちらは逆に全体の相続財産に関係なく相続した財産について各々で相続税を計算する方式です。納税義務者はそれぞれの相続人ごと。
日本と異なるのは全体の財産を把握する必要もないし、共同で申告書を提出する必要もありません。
現状の日本の制度の煩わしさを解決できるような気もします。
生前贈与については日本よりも持ち戻しの年数が10年や15年というように長いという特徴があるようです。
この制度も実は10年以上前に日本でも検討されています。
こちらは民主党に政権交代する前の自民党政権の末期に検討されていましたが、民主党への政権交代で立ち消えになっています。
自分としては民主党政権の案よりもベターだと思っていましたが、相続税の抜本改正は結局この10年間行われず、平成27年に基礎控除だけ引き下げられる、、ということになっています。
税制は政権単位という部分もありますが、財務省を中心にした各省庁の官僚マターで原案が決まっている部分も多いと思います。
一度はひっこめても、時期をみて再度出してくる、、ということがあっても不思議ではありません。
法定相続分課税方式(日本)
現状の日本の相続税の計算は、この法定相続人課税方式です。
上記の二つを折衷したような方式で、相続財産全体を法定相続割合ベースで全体の税金計算をした後で、実際に各相続人がもらった遺産の割合で各人別の相続税額を計算し直すという方式です。
暦年課税の場合は亡くなる3年以内の贈与が生前贈与加算の対象となり、相続時精算課税の選択している場合には選択後は全て持ち戻し対象です。
この制度の最大のデメリットは、遺産全てを相続人が集計して、原則は連名で相続税と申告し、さらに連帯納税義務までついてくる、、という点にあります。
ここでの隠し事は禁止ですから、こっそり贈与を受けていた、生命保険金を受け取った、ということも他の相続人にカミングアウトする必要がでてきます。
兄弟は他人の始まりともいえますから、自分がもらった財産の範囲で相続税を計算して、それぞれの責任で納税するほうが理にかなっている、、そんな時代になっているようにも思います。
10年以上の歳月を経て遺産取得課税方式が復活?
こういった形で、少なくても生前贈与の持ち戻しの期間は10年くらいまで延長される可能性もあるし、遺産取得課税方式の方法への変更もあるかもしれません。
基本的には生前贈与の加算を増やす場合には、現行の方式ではプライバシーや個人情報への配慮的にも難しいのではないでしょうか?
となると、生前贈与の持ち戻し期間の延長と遺産取得課税方式への変更はセットで議論されるべきもののように思います。
自分の予想では、遺産取得課税方式に変更しつつ、持ち戻しの年数を段階的に10年くらいまで伸ばす、、というのが落としどころのように感じています。
いずれにしても今後の改正の方向性は要チェックですね。