資格ライフ.COM 

医師や弁護士などの専門家の経理、税務、資産形成を支援しています。税金、投資、資産形成に関する情報を紹介します-TaxAccounting&Financial Planning

雑所得の副業収入300万円基準と税理士としての対応方針について考えてみた

所得税基本通達の制定についての意見募集がされました。

所得税基本通達の改正に関するパブリックコメントの募集が8月1日から8月31日まで行われています。

パブリックコメントというのは行政通達などの改定前に一般に意見を求めるという仕組みです。

よく知られているところでは、広大地評価から地積規模の大きな土地の評価に財産評価基本通達の改正が行われるときにもこういった手続きが行われました。

通達改正と税制改正の違い

今回の改正は所得税法の改正ではないため正確にいうと税制改正(法律改正)ではありません。

所得税法を改正するためには、憲法に定める租税法律主義として税制改正の手順として国会の審議を経ないといけません。

これに対して所得税法基本通達はあくまでも国税庁内部での取り決めにすぎません

通達というのは「全国の税務署の統一見解として今後このように取り扱います、税務署員はこの通達をきちんと守ってね」というルールになります。

そのため本来的には国民がそれに従う必要性はないのですが、通常は納税者も税理士も税務署と争うことはしないため、実質的な拘束力をもつルールとなります。

今回は、あくまでも国税庁の判断基準としてこのように決めますから、なんか文句あるやつは事前(パブリックコメントの募集期間中)に意見を言ってちょうだいね・・・という手続きになります。

まだ正式な通達改正ではなく、事前告知と意見募集という段階です。

改正の背景と概要

パブリックコメント制度のサイトでは次のように改正の背景と改正案の概要が記載されています。

建前としての改正の背景と裏事情

国税庁においては、シェアリングエコノミー等の「新分野の経済活動に係る所得」や「副業に係る所得」について、適正申告をしていただくための環境づくりに努めているところ、これらの所得については、所得区分の判定が難しいといった課題がありました。

【引用元】「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募手続の実施について


確かに、最近は副業ブームになっていて副業がどの所得に該当するのか、税務署員でも判断に迷うことが多いと思います。

持続化給付金や事業復活支援金などコロナ関係の補助金や助成金で確定申告する小規模事業者がここ数年は増えているのかもしれません。

一律での線引きがあったほうが税務行政の効率化につながるということもあるでしょう。

でも、一方で多様化する社会情勢や就労環境を考えると一律の線引きは難しいようにも考えると、公正性の観点からも実態での判断が必要なこともあるように思います。

どっちもどっちというのが正直なところで、これが建前としての背景となっていますが、本音の部分では租税回避的な悪質な申告が多かったという裏事情があるものと思います。今はネット社会で、裏技的なものや武勇伝はブログやYouTubeとかであっという間に拡散されていましますからね。

規模が小さい副業にも関わらず青色申告特別控除を65万円とったり、青色事業専従者給与を家族に払ったことにして赤字を作り出して給与所得と損益通算したり、、といった悪質な事例が増えてきたのではないでしょうか。

同じようなことが実は不動産所得でも可能なわけですが、不動産所得は有名な5棟10室基準によって業務的規模と事業的規模で取り扱いを分けています。

事業所得か雑所得かという所得区分の判定ではなく、同じ不動産所得でも事業的規模と業務的規模の2種類の不動産所得が存在するわけです。

これに対して事業所得については明確な数値基準を設けていなかったことによる税務トラブルが散見されてきた、、というのが本当の背景にあるのではないかと推測しています。

令和3年以前に遡って判定されるの?

不明確であった線引きを明確にするという意味あいですから、今まで認められていたものが認められなくなったというよりも、現場サイドの判断基準をわかりやすくしました、、というところです。今年からまるっきり切り替わるわけではありません。

300万円という基準ができたことで、令和3年までの申告内容でも300万円以上は明らかにセーフということで確定ですが、逆に300万円以下で事業所得で申告していた場合は改正前だから逃げ切りというわけにはいきません。

令和3年まででも悪質な場合は厳しくみられるでしょうね。

改正案の概要

上記の課題に対応するため、所得税基本通達を次のとおり改正し、雑所得の範囲の明確化をします。

⑴ その他雑所得の範囲の明確化

その他雑所得(公的年金等に係る雑所得及び業務に係る雑所得以外の雑所得をいいます。)の範囲に、譲渡所得の基因とならない資産の譲渡から生ずる所得(営利を目的として継続的に行う当該資産の譲渡から生ずる所得及び山林の譲渡による所得を除きます。)が含まれることを明確化します。

⑵ 業務に係る雑所得の範囲の明確化

 業務に係る雑所得の範囲に、営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得が含まれることを明確化します。
 また、事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が 300 万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱うこととします。

【引用元】「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募手続の実施について

 

(1)の部分は正直よくわからないところもあります。

例えばメルカリなどのフリマプリで小物を売却するような、いわゆるせどり的なものを想定しているのかもしれませんし、もしくは仮想通貨やNFTのようなものを想定しているのでしょうか。

明確化としているのでこちらが当たり前と思っていることでも、現場サイドでは混乱があったのかもしれませんね。

雑所得の区分としては、3つにわかれます。

  1. 公的年金等に係る雑所得
  2. 業務に係る雑所得
  3. その他の雑所得

 

(2)の部分が今回の雑所得300万円問題の内容になります。

改正前の所得税法基本通達にも「業務に係る雑所得に該当する」ものの例示がされていました。

35-2 次に掲げるような所得は、事業から生じたと認められるものを除き、雑所得に該当する。

  1. 動産(法第26条第1項《不動産所得》に規定する船舶及び航空機を除く。)の貸付けによる所得
  2. 工業所有権の使用料(専用実施権の設定等により一時に受ける対価を含む。)に係る所得
  3. 温泉を利用する権利の設定による所得
  4. 原稿、さし絵、作曲、レコードの吹き込み若しくはデザインの報酬、放送謝金、著作権の使用料又は講演料等に係る所得
  5. 採石権、鉱業権の貸付けによる所得
  6. 金銭の貸付けによる所得
  7. 不動産の継続的売買による所得
  8. 保有期間が5年以内の山林の伐採又は譲渡による所得

 

「例えばこういったものは雑所得になりますよ」、、ということです。

ちょっとわかりにく書きぶりですが、「事業から生じたと認められるものを除き・・」ですから、まず業務という大きな袋があって、その中から「事業から生じたと認められるもの=事業所得に該当するもの」を除いたものが「雑所得」という条文の作りになっています。

事業所得はこうです、雑所得はこうです、という書きぶりではなく、大きな袋から抜き出した残りが雑所得になるという形です。

この事業所得を抜き出すときの線引きは曖昧だったわけですね、判例などでも事実認定や社会通念などに基づいて判断していたようです。

事実認定ですから状況によって異なるわけですが、税務署員の主観も入り込む可能性もあります。

事実認定は時間がかかるし主観がはいってトラブルの元ですから、この事業的規模で行われるものと、事業的規模に至らない業務的規模との線引きが必要となったのでしょうね。

副業ブームなどで持ち込まれる件数も増え、多少悪質な事例も増えたところで、明確な線を引いて処理を迅速化するという目的があるものと思います。

改正後の通達では※で、下記の文章が追加されます。

事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのであるが、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない。

主語がないですが通達の主語は納税者ではなく税務署員です。税務署員は、条件に該当する場合は取り扱って差し支えない。ということにになります。


前提として、その所得を得るための活動が社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのですが、基準としては次の3つの条件に該当する場合には雑所得とします。ということです。

  • その所得がその者の主たる所得ではない
    (給与や不動産所得、配当所得などの他の所得で生活している)
  • その業務に係る収入金額が300万円以下である
  • 反証として事業的な規模でやっていると証明できるものがない

グレーな部分について納税者としては事業所得で申告することも当然可能です。通達ですから納税者を縛る法律ではありません。

一方で税務署員にとっての通達は法律と同様のルールですから、通達に従わずに主観で判断することは職務違反になります。

税務署員は職務違反を犯すわけにはいきませんから、この3要件に該当する場合には必ず雑所得として取り扱うことになります。

このような取り扱いに、令和4年1月1日から変わりますというか、変わっていますことになりそうです。

300万円という数字の根拠と影響は?

では、300万円という線引きはどこからきたのでしょうか?

300万円と聞いて税理士が思いつくのが、白色事業者の記帳義務の話です。

2014年より以前、300万円以下の白色事業者はいわゆる帳簿の記帳義務がありませんでした。帳簿を作らずに集計だけして申告しても認められていたわけです。

この300万円の基準が今回復活してきているわけですが、もしかしたら伝統的に国税庁の見解として300万円以下かどうかで規模感をわけていたのかもしれません。

ただ、副業で収入300万円って結構なガチ勢ですよね。なかなかの強者です。逆に士業やコンサルタント、フリーランスの中には本業で300万円いかないという人も多いはずです。例えばイソ弁と呼ばれる弁護士さんの中には、ボスの先生から給与をもらいながら自分のお客さんを拡大していくというスタイルの先生もいますよね。

駆け出しのフリーランスやエンタメ系の人の中には、アルバイトを掛け持ちしながら夢に向かって頑張っている人もいることでしょう。

これってどちらが本業でしょうか・・・という問題はありますが、本業か副業かは関係なく判断されると思います。
本業かどうかではなく主たる所得がどちらかですから、単純に給与収入などのほうが大きくて300万円を超えているのであれば生活のための主たる所得は給与のほうになるでしょうね。

じゃあ、バイトで税理士法人で職員として働いて200万円の給与、開業税理士として100万円の顧問料、、という新米税理士ならどうでしょう・・・

税理士としては丁寧にヒアリングをして判断することが大事

実際は不動産所得の5棟10室基準も金科玉条の基準ではないように、この300万円基準も事実認定や個別事情がはいる余地はあると思います。

規定されたのはあくまでも通達ですから、税理士の対応として必要なことは今までどおり事実認定と社会通念上の見え方もちゃんと考慮するということ。

納税者からきちんとヒアリングをして、個別事情を考慮にいれて判断しないといけない、というところでしょうね

【SPONSOR LINK】