相続税対策の3つの手法
代表的な相続税対策の手法としては次の3つの方法があります。
- 相続税と贈与税の税率差を使った対策
相続税も贈与税も超過累進税率ですが、税率のカーブが異なります。このカーブの違いを使った節税手法になります。 - 相続税評価額と時価との違いを使った対策
例えば借金をしてアパートを建築するとか、タワーマンションを使った対策です。現金でもっているよりも不動産を購入すること、特に建物を建築することは相続税評価額を引き下げることになり相続税の節税につながります。 - 名義変更を使った対策
例えばアパートの建物を子ども名義や法人名義に変更して、家賃などを別名義で回収していく手法です。地主さんとか、ドクターとか元々高所得で資産残高が大きい人でプールするよりも、別名義でプールしたほうが所得税の節税になったり、資金が蓄積された部分については相続税の対象からはずれる効果があります。
このうち、令和5年度の改正のターゲットとなったのは1と2の手法です。
1の相続税と贈与税の税率差を使った対策については生前贈与加算の加算期間の延長という形で改正されました。
あわせて、令和5年度税制改正で、2の相続税評価額と時価の違いを使った対策についても改正が予定されています。
タワーマンション購入による相続税の節税効果とは
今回、タワーマンションの評価額が問題になっており、その対応がされる予定なのですが、現金でもっているよりもタワーマンションを購入することでどのような効果があるか、なのですが・・・
例えば、財産が預金で2億円、推定相続人が子ども2人の場合です。
この場合、相続税の総額が3340万円となります。
それでは、2億円の借金をして、都内のタワーマンションを3億円で購入してそのタワーマンションの相続税評価額が1億円だったと仮定します。
この場合の時価は現金1億円と不動産3億円、借金が2億円ですから差引2億円で、タワーマンション購入前と時価ベースは同様です。
一方で相続税評価額は現金1億円と不動産1億円、借金2億円ですから純資産額はゼロとなり、相続税はかからないという結果になります。
タワーマンションの税務訴訟
こういった形で相続税の対策として非常に効果が高いので、タワーマンションの税務訴訟が起こり、税制改正大綱では評価の適正化を検討することとなって、具体的には財産評価基本通達を改正することになりました。
実際の最高裁判決は次のようになります。
納税者なり税理士は、財産評価基本通達に基づいてタワーマンションの財産評価をして、相続税を納税しています。
財産評価基本通達どおりに計算しているので本来は問題ないのですが、財産評価基本通達にはジョーカーというか、切り札的な条項が用意されています。
それが、財産評価基本通達6項、いわゆる総則6項といわれる条文です。「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」。
評価をするのはだれか、ということになりますが、税務通達の主語は税務署長や税務署員であるので、我々税理士が国税庁長官の指示を受けるという意味ではありません。
この通達6項の適用が適切なのかどうかを巡って争われた裁判だったのですが、脱税ではないものの租税回避と認められる行為についてはこういったちゃぶ台返しが行われます。
今回は、銀行の融資判断上の書類にも相続税対策のためという意図がはっきりして書かれていて、相続税対策のために企画したものであるということが決めてとなっています。
何事もやり過ぎると当局に目をつけられるところでしょうか。
結果的には、マンションの評価方法そのものが問題ありということを裁判所から指摘を受けて、今回の改正につながっています。
相続税の計算での「時価」とは何か?
相続税は相続時の時価に基づいて財産の計算をするのですが、過去の裁判では時価とは客観的交換価値と言われてきました。
これに対して現行のマンションの評価額はどのようになっていたかというと、土地と建物にわけて評価をする形になっています。
通常の戸建てと評価方法はさほど変わりません。
土地は、路線価×面積で、マンションの敷地全体を一括で評価をして、敷地権割合を乗ずることで計算ができます。
敷地権割合は登記簿謄本に記載されています。
建物については、全体の固定資産税評価額に敷地権割合を乗ずることで計算できますが、これは自分で計算する必要はなく、役所で個別に計算してくれています。
固定資産税評価証明書にそれぞれの専有部分の評価額が記載されています。
マンションの階数に影響なく割り振られています。
固定資産税評価額は木造か鉄筋かどうかなどの建材の違いや経年などで計算されてロケーションの影響もほとんどありません。
つまり、駅チカのタワーマンションの高層階というのはかなり有利な条件で評価額が決められるということになります。
売買相場の半額から3割程度になることもあって問題視されているということです。
学識経験者などで適正な評価方法についての検討後に、パブリックコメントの募集を経て通達を改定することになる予定です。