
クライアントの資産承継において、生前贈与は非常に有効な手段の一つです。
クライアントの思いに寄り添い、余裕資金を子や孫へ前倒しで受け渡すことで、教育資金や住宅購入資金として有効活用してもらったり、将来の相続税負担を軽減したりといった多くのメリットがあります。
しかし、提案の際に「相続税の節税効果」ばかりに目を向けてしまうと、将来的に思わぬ親族間トラブルを引き起こす可能性があります。その代表例が「遺留分」をめぐる争いです。
特定の相続人に財産が偏るような生前贈与を行った結果、ご本人が亡くなった後に他の相続人から「遺留分侵害額請求」を受け、受贈者が突然多額の現金を支払う事態に陥るケースは少なくありません。
私たちFPは、税務面のメリットを伝えるだけでなく、遺産分割で揉めないための法務面のリスクも考慮した、総合的なアドバイスを提供する必要があります。
本記事では、FPが実務で必ず押さえておくべき「遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与の範囲」と、クライアントに提案すべき「遺留分トラブルを防ぐための具体的な対策」について解説します。
遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与の範囲
遺留分とは、一定の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)に最低限保証されている遺産の取得割合です。
すべての生前贈与が遺留分請求の対象になるわけではなく、原則として以下の3つの条件のいずれかに当てはまるものが対象となります。
① 死亡前1年以内に行われた生前贈与
贈与者が亡くなった時からさかのぼって1年以内に行われた生前贈与は、受贈者が相続人であるか第三者であるかを問わず、原則としてすべて遺留分の対象となります。
② 死亡前10年以内に「相続人」に対して行われた「特別受益」にあたる贈与
相続開始前10年以内に行われた生前贈与のうち、受贈者が法定相続人であり、かつ「特別受益」に該当するものは遺留分の対象となります。
特別受益とは、「婚姻・養子縁組のための贈与(結婚費用や持参金など)」や、「生計の資本としての贈与(住宅購入資金や多額の教育費など)」を指します。
なお、扶養の範囲内とされる日常的な生活費の交付などは対象外です。
③ 遺留分を侵害することを知って行われた贈与
贈与者と受贈者の双方が、他の相続人の遺留分を侵害することを知ったうえで行った贈与は、上記の1年や10年といった期間の制限に関係なく、何年前の贈与であっても遺留分の対象となります。
例えば、贈与者が高齢でこれ以上財産が増える見込みがない状態にもかかわらず、多額の贈与を行った場合などがこれに該当する可能性があります。
2. クライアントに提案したい!遺留分トラブルを防ぐための5つの対策
遺留分請求を法的に完全に防ぐ手段はありませんが、将来のトラブルを未然に防ぎ、ダメージを最小限に抑えるために、FPとして以下のような対策を提案しましょう。
- 偏った生前贈与を避け、バランスの取れた財産承継を
遺留分トラブルの根本的な原因は、財産の偏りに対する不満です。特定の相続人だけに財産を集中させるのではなく、他の相続人にも財産を残すなど、遺留分に配慮したバランスの取れた贈与計画を立てることが基本となります。 - 代償資金(支払い資金)を準備しておく
遺留分侵害額の請求が認められた場合、原則として金銭で支払う必要があります。突然多額の現金を用意するのは困難なため、どうしても同居の親族などに財産を集中させたい事情がある場合は、将来遺留分を請求された際の支払い原資として、受贈者が生命保険金や死亡退職金を受け取れるようにしておくなど、資金調達の仕組みを整えておくことが有効です。 - 中小企業オーナーの場合は「民法の特例」を活用する
クライアントが中小企業オーナーで、後継者に自社株を生前贈与する場合は、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく民法の特例が活用できるか検討しましょう。遺留分権利者全員の合意や経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可などの要件を満たすことで、生前贈与した自社株を遺留分算定の対象から除外したり、評価額をあらかじめ固定したりすることが可能です。 - 「特別受益の持ち戻し免除」の限界を正しく伝える
生前贈与の際、贈与契約書に「特別受益の持ち戻しは免除する(相続では贈与がなかったものとして遺産を算定する)」と記載することで、遺産分割におけるトラブルを防ぐ効果が期待できます。しかし、この持ち戻し免除の意思表示をしたとしても、遺留分そのものの請求を防ぐことはできない点には注意が必要です。クライアントが「免除の記載をしたから絶対安心」と誤解しないよう、正しく伝えましょう。 - 必要に応じて弁護士などの専門家と連携する
相続人同士が争いになる可能性が高い場合は、紛争解決の専門家である弁護士に事前に相談することを勧めるのも、FPとしての重要な役割です。税務や節税対策は税理士、不動産の登記手続は司法書士、紛争予防は弁護士と、目的に応じて他の専門家と連携しながらクライアントをサポートする体制を整えておくことが大切です。
まとめ
生前贈与は有効な資産承継の手段ですが、遺留分への配慮を怠るとクライアントの家族に思わぬ負担や争いを強いることになります。
FPは節税のメリットだけでなく、法務面のリスクも考慮した総合的なアドバイスを提供し、クライアントの円満な財産承継をサポートしていきましょう。


