
相続対策、自社株対策として、会社の資産構成を変更して評価額を下げる手法はこれまでも存在しました。しかし、令和7年6月19日に東京高等裁判所で下された判決は、そうした手法に警鐘を鳴らす、注目すべき結果となりました。
今回は、非上場株式の評価を巡る裁判について、税理士の視点から解説します。
事件の概要
この裁判は、非上場企業A社の株式を相続した被控訴人らが、相続税の申告方法について国と争った事案です 。
被控訴人らは、当初、純資産価額方式と類似業種比準方式の併用方式で株式を評価して申告しました 。
これに対し、松本税務署長は「評価通達の定めによって評価することが著しく不適当」と判断し、評価通達6に基づき純資産価額方式で再評価して、増額更正処分を行いました 。
原審は被控訴人らの請求を認容しましたが、国が不服として控訴 。東京高等裁判所は国の主張を認め、原審判決を取り消しました 。
判決のポイント:評価通達は絶対ではない
今回の判決で最も重要な点は、「評価通達に定められた評価額が、必ずしも相続税法上の『時価』ではない」と裁判所が明確に示したことです 。
相続税法22条は、相続財産の価額を「取得の時における客観的な交換価値としての時価」によると定めています 。
評価通達は、あくまでこの時価を評価するための「一般的な方法を定めたもの」であり、国民を法的に拘束するものではないと判断されたのです 。
このため、評価通達で計算した評価額と実際の交換価値(時価)に乖離がある場合、客観的交換価値を上回らない限り、通達によらない評価も適法とされました 。
著しい租税負担の軽減と平等原則
本件では、被相続人が保有する現預金を非上場株式に転換させる等の行為が行われました 。株式保有特定会社にならないようにするいわゆる「株特外し」の事例です。
金額は大きいですが、やっている内容はいたってシンプルで伝統的な節税手法です。この方法だと相続税評価額が下がるようね・・という話。
これにより、評価通達に従って評価すると、課税価格が約17億円、相続税額が約9.8億円も軽減されると認定されています 。この金額と軽減割合(約48.1%)を総合的に考慮すると、「相続税の負担は著しく軽減される」と裁判所は判断しました 。
さらに、被控訴人らが「相続税の負担を減じさせることを知り、これを期待して、あえて」これらの行為を行ったことが明らかであるとされました 。
裁判所は、このような行為をせず、またはすることができない他の納税者との間に、「看過し難い不均衡」が生じ、実質的な租税負担の公平に反すると判断 。
そのため、評価通達によらない評価方法を採用することには「合理的理由がある」とし、平等原則に違反しないと結論付けました 。
非上場株式の評価での過度な節税対策に潜むリスク
今回の判決は、単に相続税の負担を軽減する目的で行われた行為に対し、課税庁が厳しく対処する姿勢を追認したものです。
特に非上場株式の評価においては、その会社の資産構成や実際の取引事例、株主間の関係性といった個別の事情が、評価の正当性を左右する重要な要素となります。
今回の裁判でも、過去の株式取引価額が客観的交換価値の合理性を裏付ける証拠として採用されました 。また、非流動性ディスカウントやマイノリティ・ディスカウントといった割引の適用についても、個別具体的な状況に基づき、不合理と判断されています 。
相続対策は、安易な節税策に飛びつくのではなく、専門家と相談しながら、個々の状況に合わせた適切な計画を立てることが重要です。
今回の判決は、その必要性を改めて浮き彫りにしたといえるでしょう。


