毎年年末になると来年度、つまり翌年4月以降の税制をどうするかの取り決めが発表されます。これが税制改正大綱です。
税制調査会という機関で話し合われた後に、自民党と公明党の与党の連名でこの時期に発表され、さらに内閣(総理大臣他の各大臣)による会議での閣議決定をへて正式に動き出します。
来年度の話なのでまだまだ先の話に思われるかも知れませんが、国の収入である歳入はこの税金が主であり、収入に基づいて予算も割り当てられますから来年度の予算を考えるうえでも大事な取り決めとなります。この税制改正の内容について個人的に気になった項目を少しだけ紹介しようと思います。
(平成30年12月14日の自民党・公明党の平成31年度税制改正大綱に基づいており、内容的には私見によりますのでご了承ください。)
気になる項目1:消費税の増税への対応
特に今回の税制改正は来年10月に予定されている消費税の増税にむけた駆け込み需要とその反動対策が中心になっています。
駆け込み需要だけなら景気対策になりますが、その後にやってくる急速な消費の冷え込みが経済に大きな影響を与えます。その反動による景気の冷え込みの対策として特に影響の大きい住宅と自動車の購入にインセンティブを与えるような内容になっています。
住宅面では住宅ローン控除が拡大されます。
ローン控除の控除期間を3年間延長されて13年間になりますが、最後の3年間の計算が少し特殊です。
長期優良住宅などではない通常のケースでは、追加される最後の3年間の控除額は次の金額のうちいずれか少ない金額となります。
- 住宅ローンの残高(4000万円限度)の1%
- 対象となる住宅の取得価額から消費税を控除して(税抜きにして、4000万円を限度)×2%×1/3
気になる項目2:ふるさと納税の制限
今年もいろいろと賛否両論を巻き起こしたふるさと納税も高騰する返礼品の還元率を抑えるような税制が導入されます。
本来は税制の話ではなく総務省と各自治体の間で話をつければいい話だと思いますが、税制の中でもきちんとバランスをコントロールしたいという考えなのかも知れません。
税制改正大綱では次のように記載されています。
ふるさと納税制度の健全な発展に向けて一定のルールで地方公共団体が創意工夫をすることにより全国各地の地域活性化に繋げるため、過度な返礼品を送付し、制度の趣旨を歪めているような地方公共団体については、ふるさと納税の対象外にすることができるよう、見直しを行う。
具体的には総務大臣が基準に適合する都道府県等をふるさと納税の対象として指定する適合自治体の指定制度が導入されます。
したがって、平成31年6月1日以降の寄付についてはこの総務大臣の指定を受けている自治体かどうかのチェックが必要になります。
気になる項目3:NISAの対象年齢の引き下げ
成年年齢の18歳への引き下げに対応してNISAやジュニアNISAなどでの対象者を18歳で区切るということも行われます。制度変更にあわせて18歳から大人として投資をスタートして欲しいということでしょうか?
非課税口座の開設ができる年齢をその年1月1日現在で18歳以上に引き下げることになります。同時にジュニアNISAの対象についてその年1月1日現在で18歳未満に引き下げられます。
成年年齢の引き下げは2022年4月からのようです。
その一方でNISA関連では制度の恒久化や見直しのところは今回は実施されません。
そのため株式相場に新規の資金が流れ込むということは予想されないので、株価への影響などは限定的かもしれません。
また、仮想通貨の取り扱いについて例外的な課税方式をとるのかと思っていましたが、こちらは見送られているようです。検討事項として金融所得課税の更なる一体化という項目があげられていましたので、FXやクリック365などのデリバティブ取引を含めた一体課税が今後検討される可能性があります。
気になる項目4:民法等(成年年齢・相続法)への対応
民法、特に相続法が改正されていきますが、税法(相続税)についても成年年齢の引き下げと相続法の改正への対応がなされていきます。
未成年者控除などの対象となる未成年の年齢引き下げ
NISAと同様に相続税の未成年者控除の対象となる相続人の年齢が18歳未満に引き下げされます。
その他にも贈与税の計算で影響がある受贈者(もらう人)の年齢が20歳以上が対象となっていたものが18歳に引き下げられるものは次のようになります。未成年者控除は対象となる未成年者が縮小しますが、贈与税については対象年齢が広がることになります。
- 相続時精算課税制度
- 直系尊属から憎悪を受けた場合の贈与税の税率の特例(いわゆる特例税率)
- 相続時精算課税適用者の特例
- 非上場株式等に係る贈与税の納税猶予制度(事業承継税制)
これらの改正は成年年齢が引き下げられる平成34年(2022年)4月からとなります。
民法(相続法)の改正に伴う措置(配偶者居住権等の評価額)
相続税における配偶者居住権等の評価額の計算方法が定められました。しかし、いまいち算式だけだとピンときません。
配偶者居住権
建物の時価-建物の時価×(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数×存続年数に応じた民法の法定利率による複利原価率
※( )ないがマイナスになる場合にはゼロとなります。
配偶者居住権が設定された建物(居住建物)の所有権
建物時価-配偶者居住権の価額
配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利
土地の時価-土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利率による複利原価率
居住建物の敷地の所有権等
土地等の時価-敷地の利用に関する権利の価額
建物と土地についてはそれぞれ権利部分を先に評価をして、権利がないケースの価額から居住権の部分を控除するという方式をとっています。
ここで新たな用語としてでてくるのは残存耐用年数と存続年数の2つでしょうか?
残存耐用年数とは?
残存耐用年数は譲渡所得の計算でも使う耐用年数の1.5倍基準によるようです。所得税法の耐用年数(住宅用)に1.5倍を乗じて計算した年数から居住建物の築後経過年数を控除した年数となります。
存続年数とは?
この辺も相続法改正の話の中でいつまで権利が続くのかということは疑問としてありました。
終身ってどうやって計算するのか?改正によると「平均余命」を使うようです。平均寿命ではなくて余命です。女性の平均寿命は87歳くらいだと思いますが、これは0歳の人が平均して何歳まで生きるのか?という統計です。80歳まで生きている人が何歳まで生きるのか?というのが平均余命です。80歳女性は平均して92歳くらいまで生き続けるようなので平均余命は12年となります。
あくまでもその年齢の人が後何年生き続けるのかという統計が平均余命となります。
- 配偶者居住権の存続期間が配偶者の終身である場合・・・配偶者の平均余命年数
- これ以外の場合・・・遺産分割協議書等により定められた配偶者居住権の存続期間の年数(配偶者の平均余命年数を上限とする)
気になる項目5:小規模宅地の特例の制限
小規模宅地等の減額のうち特定事業用宅地等にかかる小規模宅地等について、その範囲から相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等が除外されます。これは昨年の貸付事業用や特定居住用に続く直前対策を制限する制度改正と思われます。
ただし、3年以内の事業供用のケースでもこれらの宅地の上で事業の用に供されている減価償却資産の価額が、当該宅地等の相続時の価額の15%以上である場合は除かれます。これも具体的な計算例がでないとなかなかピンとこないところです。減価償却資産とあえて言っているので建物に限定されずに機械等も含めた判定ということになるのでしょうか。
経過措置があり平成31年4月1日以後に相続等に取得する財産から適用となり、さらにそれ以前に事業用に供されている宅地等は適用しないとされています。
気になる項目6: 教育資金と結婚・子育資金の一括贈与の非課税の見直し
教育資金の一括贈与の非課税措置と結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置が2年間延長されます。ただし、受贈者(もらう人)の前年の合計所得が1000万円を超えるばあいには適用されないという所得制限が加わります。
また、教育資金の範囲から除外されるものがあるほか、贈与者の死亡前3年以内の教育資金の非課税贈与については一定の場合(23歳未満であることや在外中であることなど)を除いて相続税の計算に持ち戻されることになります。
結婚・子育て資金については従来から3年以内に限らず持ち戻しの対象なので、持ち戻しに関する改正の影響はありません。