税制改正大綱で予告!相続税大改正があるかも??
昨年末の税制改正大綱では相続税の改正に関する予告ともとれる文章が掲載されました。
事前に政府税調の議論などをHPでみていたため、予告ではなく本編でいれてくるのかな、、と思っていたのですが、今回はあくまでも予告で取り入れられています。
あくまでも予告ですし、検討中ですよ、、、ということなのですが、資産税界隈を中心とする税理士業界ではいろいろな憶測が飛び交っています。
資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けた検討
高齢化等に伴い、高齢世代に資産が偏在するとともに、相続による資産の世代間移転の時期がより高齢期にシフトしており、結果として若年世代への資産移転が進みにくい状況にある。
高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになれば、その有効活用を通じた経済の活性化が期待される。このため、資産の再分配機能の確保に留意しつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築することが重要な課題となっている。
我が国の贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から、高い税率が設定されており、生前贈与に対して抑制的に働いている面がある。一方で現在の税率構造では、富裕層による財産の分割贈与を通じた負担回避を防止するには限界がある。
諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、資産の移転のタイミング等にかかわらず、税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止するような工夫が講じられている。
今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。
段落でわけると5つにわかれてきます。
それでは段落ごとに細かく読んでいきましょう・・・
第1段落
高齢化等に伴い、高齢世代に資産が偏在するとともに、相続による資産の世代間移転の時期がより高齢期にシフトしており、結果として若年世代への資産移転が進みにくい状況にある。
日本人の金融資産は高齢者に偏在している、、とは昔から言われています。
確かに高度成長を経て日本人はかなり裕福になったと思いますし、年金制度なども充実していて今の高齢世代は優遇されてきたと個人的にも思っています。
高齢者から若年層へ金融資産を移転させて、消費に回して経済を活性化していきたい、、、言いたいことはごもっともでございます。
第2段落
高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになれば、その有効活用を通じた経済の活性化が期待される。このため、資産の再分配機能の確保に留意しつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築することが重要な課題となっている。
政策的な配慮から、資産を若年層に移転させる、有効活用を通じて経済の活性化、、結局は第1段落と同じことを言っているわけですね。別に税制の問題ではないと思いますが、税制で後押しというのは財務省が大好きなワードなのでしょう。
とにかく、経済対策の意味あいでも、資産の世代間移転に向けた税制の取り計らいをいたしましょうということのようです。
でもこれって今までもありましたよね、、贈与税の特例的なものが・・・
- 相続時精算課税制度
- 住宅取得資金贈与の非課税制度
- 教育資金の一括贈与の非課税制度
- 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度
色々と考えだしてきていましが、そろそろネタ切れなのでしょうか???
やっぱり根本的にこの制度を変えた方がよくない???
って、じゃあ今までのいろいろな特例は何だったの・・・
第3段落
我が国の贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から、高い税率が設定されており、生前贈与に対して抑制的に働いている面がある。一方で現在の税率構造では、富裕層による財産の分割贈与を通じた負担回避を防止するには限界がある。
ここにきて話がちょっと変わってきています。
贈与税が累進税率で高すぎるからなかなか生前贈与がすすんでいないのでは?という反面で、いわゆる富裕層では累進課税逃れのために毎年少しずつ暦年贈与で資産を移転していてズルいのでは?
前半と後半で真逆のことを言っているから矛盾しているように感じてしまいますが、両方とも問題だよねってことなのでしょうか。
暦年贈与に対してネガティブに動く人と、ポジティブに対応する人で二極化しているのが問題、、ということなのかな??
暦年課税をディスっているわけですが、まとめて贈与するにはすぐに超過累進が進んで贈与しにくいし、毎年のように子供や孫に相続税対策として贈与をしている富裕層もいることを問題視しているわけですね。
確かに相続税対策のどの本を読んでも、暦年課税で少しずつ贈与していくのが王道として紹介されています。
王道だし適法ですが、それはそれで気に入らない、、、というのが財務省の考えのようです。
第4段落
諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、資産の移転のタイミング等にかかわらず、税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止するような工夫が講じられている。
海外との比較も租税法学者や財務省が好きなやり方です。とりあえず諸外国を参考にしておけば問題なし、、的な安直な話、、というと当局から怒られそうです。
他の制度や細かい税制、法制の違いを伏せて自分たちに都合のいいところだけ比較するやり方のようにも見えます。
欧米と比較して・・・・的な話法をいつまでやるのかという感じがしますが、アメリカは基本的に累積課税方式だし、ヨーロッパの方では生前贈与加算の年数が日本の3年よりも長いという話になっています。
でも、累積方式や長期贈与加算方式だと、現場の税理士の申告業務がかなり煩雑になります。
既にある相続時精算課税の申告って実は結構大変です。
相続時精算課税では110万円以下の贈与であっても持ち戻しですし、贈与税の申告をしているかどうかに関係なく持ち戻しになります。
税務調査では税務署は金融機関に照会をかけて調べることができるかもしれませんが、相続人は金融機関の窓口で照会するにもお金がかかるし、通帳を処分していたら税理士的にはお手上げです。
税務申告の煩わしさ、実務的な申告コストを考えると非現実的な話のようにも思います。
アメリカのような累積方式をとるのであれば課税方式を個人別の遺産取得方式にするなり、基礎控除を大きくしないと現実的には難しいような気がします。
誰かの生前贈与の金額が間違っていたら、相続人全員の修正申告をしないといけないのが今の制度です。
第5段落
今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。
相続税と贈与税をより一体にする、、ということですから相続時精算課税的な要素を強めることが予想されます。
暦年課税的な部分がどこまで残るのか、年齢や相続開始前の年数、親族外などを考慮した例外的なものに限定されるのか・・
格差是正、、こちらも財務省が大好きな言葉です。政治的にも耳障りのいい言葉。
コロナの影響などで国民の経済的格差が広がりをみせています。
こういった時代は、格差是正のために富裕層に重税を課すことが批判や不満の矛先をかわすために行われます。
格差なんていつの時代にもあったし、本当に格差の是正をするためには政治がもっとやるべきことがあるのではないかと思ったりもします。
矛先をそらすことを考えるのではなく、もっと実効性のある経済対策や格差是正の仕掛けを工夫して作ることに注力すべき、、とも思います。
その前に努力した人が報われる社会、リスクをとった人がリターンを得る社会が資本主義なのだから、格差を大きくとりあげるのは資本主義を否定するのか、社会主義を肯定するのか、、という問題もあります。
「格差是正」というのも本当はもっと複雑で、アンタッチャブルなテーマなのかもな、、、とも最近自分にも少しだけわかってきました。
とりあえずはこの話は決定シナリオではなく、これから本格的な検討を始めるようです。
でも、税理士界隈は様々な憶測が独り歩きして、確定申告の繁忙期が終わるといろいろとざわついてくるんでしょうね。