税理士にとって確定申告は最大の業務といってもいいと思います。
もちろん法人顧問先が中心、個人の関与先が中心、相続税が中心・・・という感じで最近は得意分野がわかれてきています。
それでも確定申告業務をいかに効率的に行うかというのはそれぞれが工夫していると思います。
事務員に投げてチェックだけをしている税理士や、そもそもそれほど確定申告をやらない事務所もあると思いますので、実務的にどのように行っているかというのはなかなか表に出てこない部分かもしれません。
僕はそれなりに自分で処理をしているため、税理士の中でも確定申告の実務はしっかりやっているほうだと思います。今回はその辺のコツというか心掛けていることをちょっとだけ紹介してみます。
そこそこベテランと言っていますが、今年で20回目の確定申告シーズンです。プロ野球選手でいえばかなりのベテランかな??
準備段階で心掛けていること
確定申告の準備をいつから始めるのかというのはこれも各自それぞれだと思います。
一つは知識面でいうと、年中個人の所得税を取り扱っているわけではないので直前にある程度はまとめて知識をブラッシュアップする必要があります。通常の月は法人の決算や相続税の申告業務、相続対策の提案などが主な仕事なので、確定申告はどちらかというと季節限定の特殊業務です。
※こういった手引きなども入手しておきます。
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※一般向けの本もイラストや図解が多くてわかりやすい
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税務申告ソフトも毎年のように改定やバージョンアップがありますから、ソフトの使い方の予習も必要となります。書籍で学ぶか、動画などで学ぶか、手引きや国税庁HPで学ぶかという方法はあると思いますが、個別のお客様の仕事に入る前に確定申告の事前準備としてこの予習は絶対に必要なものだと思います。申告書の作成に入っても最初の数件は流れを思い出しながらになるため意外とケアレスミスが多いものです。1つ1つの準備作業を丁寧に行わなければなりません。
さらにメンタルとか体調面での準備も必要でしょう。この時期になると、集中して取り組むし、疲れたとか体調が悪いと言って休むわけにはいかないでしょうから、心と体のケアやメンテナンスも整えておくようにしています。インフルエンザの予防接種は必ず受けておくべきだし、手のけがをすることのあるスキーなどはなるべく避けたほうがいいかもしれません。足の骨折ならまだしも手が動かせないとね"(-""-)"
こういったことが準備段階でしょうか。
資料収集段階で心掛けていること
税務申告は資料収集が命です。
どんなに優秀な税理士であっても資料の収集ができなければ動けないのですから当然といえば当然。弁護士のドラマなどで証拠を集めるのと同様に、基礎資料の収集は確定申告業務の基本のキといえます。資料を収集するのは税理士ではなく納税者本人で行うのが通常ですから、どんな資料が必要であるかをお客様にわかりやすく説明し、いかに効率的に回収できるかどうかが重要になります。
そのためには前年の申告書や資料を事前に予習しておき、一覧表にまとめるなどしながらお客様が収集しやすい状況を作ること、そして漏れがないかどうかの確認をしながら適切なタイミングで回収していくことが大切です。適切なタイミングというのは、確定申告に必要な資料は到着するタイミングが異なるためです。控除証明書など年末調整と重複する書類については10月くらいに来ますし、給与所得の源泉徴収票は12月から1月初旬に勤務先からもらえます。公的年金の源泉徴収票は1月の後半になりますし、介護保険や国民健康保険料の納付済額のお知らせなどは自治体により異なると思いますが、横浜市の場合には1月下旬に到着します。
概ねすべての書類が揃うのは1月の最後から2月のはじめとなります。お客様ごとの必要書類によって手元に揃う時期を想定しながら資料の回収を進めていきます。
処理段階で心掛けていること
確定申告については資料が揃ったものから順次手を付けていくと、後半で不足している書類がでてきたりと不測の事態が生じます。また、お客様によってはざっくりでもいいから早めに納税額を知りたいという人もいますから、同時進行でなるべく進めることが望ましいと思います。
確定申告時期は2月16日から3月15日までではありますが、2月の上旬から同時進行で数十件の書類の作成を進めることになります。あるお客様は資料が揃っているのであとはまとめるだけでも、あるお客様はこれから1年分のデータ入力がある場合もあります。
この段階で資料が整っているものからまとめ始めると、1年分のデータを最後にまとめて入力することになります。そのため整っているものはそれなりにまとめながら、データの入力も同時進行で進めていく必要がでてきます。
1つ1つ片づけていくという方式も考えられますが、まずは手をつけないと始まらないのが仕事です。手を付けていないというのはストレスも生じるし、少しでも手をつけておくと実際には手を動かしていなくても脳内で作業をスタートすることもできます。
脳内作業というのはおかしな話ですが、手をつけはじめるとちょっとした時間で課題になっていた仕訳や処理について考えがまとまることもあります。手を動かしていることだけが作業ではなく、手を動かしていない時間でも仕事をすすめるのがポイントです。
頭の中ではまとまっているから大丈夫・・・というと変な顔をされることもありますが、実際にはデータの入力ができていなくても資料が揃っていて申告書のイメージができていればあとは作業するだけなので多少遅れがあっても安心材料になります。
来年に向けて心掛けていること
申告が終わると来年に向けた準備になりますが、PDCAサイクルを自分なりに回すのが基本になります。計画通りに進められたのか、改善すべきことはなかったのか、など事務所全体だけではなく、自分自身のPDCAを高速でまわすことが大切です。
また、確定申告時期は絶好の営業の場でもあります。今の時代は税理士の仕事は税務申告にとどまりません。遺言などの相続対策や、生命保険などを使った相続税対策の提案もできるかもしれません。また、不動産管理法人の設立や個人事業の法人成り、少なくとも小規模企業共済の提案くらいはやっておくべきでしょう。
そして高齢のお客様については後継者やご家族との接点をもっておくにことも大切です。1年に1度の確定申告のみのお客様については来年もお元気かどうかは誰にもわかりません。万一の時や、ご自分で資料収集ができなかったときに備えて、家族や後継者にも名前や顔を覚えてもらい、連絡先なども交換しておく必要もでてきます。
また、不動産の売却や大規模修繕などは年の途中でありますから確定申告時期まで手をつけないのではなく、早めに必要な資料を入手して事前に検討することも大切な準備です。事務所内で検討する時間もとれますし、外部の専門家や国税OBの意見なども聞くこともできます。
確定申告はAIなどで将来的には減っていく業務かもしれませんが、高齢化がすすんでいる中では必要性も増しているように思います。目の前のお客様のために何ができるのか考えて、必要とされているのであれば精一杯の対応をするということでいいのではないでしょうか。