確定申告の時期は税理士事務所にとっては繁忙期である。
税理士事務所のスタッフは、同時に30とか、50とか100くらいの担当先を割り振られることがある。
この数十の担当先をどのように進めるかは、税理士事務所スタッフの能力やセンスが問われるところである。
複数の担当先を同時進行で行えるスタッフがいる半面で、1件終えたら次の1件という流れで実施するスタッフもいる。
1件終えないと次の1件ができないなんてまさにひと昔前のパソコンである。
マルチタスクか、シングルタスクかという問題である。
事業所得や不動産所得が大きな規模になるほど、確定申告の資料は一度に回収できることはまずない。簡単な仕事であれば、すぐ回収してすぐに処理して、はい次…といけるだろうが、複雑な仕事ほど歩留まりの状態が生じることがある。シングルタスクのスタッフではこういった対応が難しいのだ。
2月15日、今の段階ではある程度は資料収集が完了し始めている段階である。
スタッフのうちにはこの段階で、例えば30件のうち6件完了して残りの24件は手付かずというシングルタスク型Aさんと、30件の全部のファイリングと資料収集の完了と未完の仕分け作業ができているマルチタスク型Bさんがいる。Aさんは上司に指示された順番で1件ずつ取り組むタイプ、Bさんはまずベースの部分を一通りまとめて全体像を把握したうえで実際の作業に入るタイプだ。
どちらのスタッフが将来伸びる素地があるかというとマルチタスク型のBさんである。Aさんは常に数件くらいの業務を集中してできるだけで、担当件数を増やすことが難しいという判断である。Bさんは、担当件数を増やしてもそれなりに対応できそうである。
Aさんの仕事、どういう優先順位があるのかは不明であるが、顧問料が高い順に処理するとすると顧問料の高いお客様から取り掛かるとすると、確かに合理的かもしれない。
顧問料の高いお客様は早く処理が終わり、喜ばれる。一方でその間止まっているお客様は待たされることになる。報酬が安いのだから仕方ないといえば仕方ない。特急料金を払えば早くやってやる、、とうところだろう。Amazonプライム会員は早く届けます!というのと同じ理屈だ。
それなりに報酬を払っていると(本人は)思っているお客様にとってはおもしろくはないだろう。問い合わせをしても、「優先順位が低いからまだ先です」という返事、申告期限ぎりぎりになって「資料が足りません」と言われる…何となく釈然としない思いになる。Aさんの仕事はこういうことになりかねないのである。そして、最後は期限ぎりぎりに深夜まで残業してでも終わらずに最後はえいやっでまとめてしまう。ベテランスタッフでも、いやベテランスタッフほどこういう間違った進め方をしてしまう人が多いのだ。
これは、顧客の顧問料という優先順位だけで業務の処理順を決めているのが問題の原因なのだ。業務をタスクで分解して、さらにタスクごとに処理順を決める必要があるということである。
タスクごとに分解して考えないから、ある顧客は手付かずで残し、ある顧客は完成というアンバランスな進め方をしてしまうのである。Bさんの進め方であれば、ある程度は全体像や不足書類、進捗状況がわかっているためクレームになりにくいといえる。そして初動のところで基礎部分の構築と計画を立てることをやることが重要なのだ。
つまり、確定申告という業務をタスクごとに分解して、資料のコピーやファイリング、書類のチェックなどの重要なタスクは一通り終わらせた後で、優先順位の高い顧客から決算書の作成やまとめの作業を行うというマトリクス的な計画が重要なのだ。
そしてAさんは指示待ちでしかなく、Bさんは自分で計画して自分で実行できる自律型の人材といえる。できるスタッフは間違いなくマルチタスク型、自律型スタッフのBさんである。