気になっていた本ですが、最近Kindleで50%ポイントバックキャンペーンだったので購入してみました。
プライベートバンカー 完結版 節税攻防都市というタイトルですが、基本的にはハードカバーの「プライベートバンカーカネ守りと新富裕層」に加筆した形の本になります。
Amazonでしか見ていないので文庫版という認識はなく購入したのですが、内容的にはほぼ同一の内容で、ノンフィクションだけに時代にあわせて注釈を加えたり、後日談を加えたりというのが違いでしょうか・・。だったら続編のようなタイトルにすんなよ、と思わざると得ないけど、復習を兼ねて再度読み返してみました。
ハードカバー版を読んだ人が再度買って読む必要があるかどうかというとないと思いますが、まだ読んでいない人でお勧めできるのはこういった人かもしれません。
- 金融機関で働いていたり資産家向けのサービスを提供する人
- 金融機関への就職を考えている学生
- 税理士や会計士などの会計や税務の専門家
- ベンチャー起業で成功して、M&Aでイグジットを考えている人
- FPやPBなどの資格保有者
作者は元読売ジャイアンツの球団社長の清武氏
著者は読売新聞社の記者で、元読売巨人軍の球団社長としても知られる清武英利氏ですが、何となくナベツネ批判をして辞めたような記憶があります。
その後もノンフィクション作家として映画化されるような著書をだしています。山一証券の最後を描いた「しんがり 山一證券最後の12人」も有名です。
海外居住を使った租税回避スキームがテーマのノンフィクション
序章の書き出しは次のようなシーンから始まります。
あかん、もう退屈で死にそうや。日本に帰りたいわ
税金を支払う必要があるのは誰か・・・というと税法的には納税義務者ということになります。
納税義務者でなければ税金を支払う必要はありませんが、納税義務者に該当すると税金を支払う必要がある、これが税務の基本ルールです。
誰が納税義務者になるのか、というと「日本人」でしょと思うかも知れませんが、間違ってはいないかもしれないけど、正確ではない答えです。
日本国籍がある人が日本人なのかもしれないけど、日本に住んでいる人すべてが日本国籍を持っているわけでもないし、日本国籍を持っていても海外に住んでいる人もいます。
つまり国籍だけではなく、どこに住んでいるのか、というのも納税義務者の判定に影響うことになります。
相続税では国籍、住所や居所といったところが納税義務の判定でつかわれ、ここ数年で徐々に範囲が変節していますが、長期間海外に居住していれば納税義務者からはずれたり、課税対象が限定されるというルールがあります。
このプライベートバンカーというノンフィクション小説は納税義務者から外れるために海外に居住している資産家とそこに群がるプライベートバンカーに焦点をあてて、実話をベースに書かれている本なのです。
舞台は金融都市シンガポール
タックスヘイブンという言葉がありますがタックスヘイブンには該当しないものの、税率が日本に比べて著しく低かったり、相続税がない国が存在しますが、シンガポールは治安もよくて住みやすいことでこういった資産家には人気があるようです。
もちろん、こういった海外居住を使った節税は違法ではないのですが、武富士事件でみられるように国税庁はマークしています。最近はBEPSと言って日本だけでなく全世界的に国際的な課税逃れを監視したり、排除するような仕組みを作ろうという動きがあるため注意が必要といえます。
節税と脱税の違いは何か
節税なのか、脱税なのかというのは一般にもよく使われるし、わかりやすいと思います。
節税は合法だけど脱税は違法、、そういった理解で問題ないと思います。
さらにこれに加わるのが「租税回避」という話です。
租税回避というのは分かりづらい概念ですが、違法ではないけどこれってヤバイよね、、というレベル感だけど、これもわかりづらい。
法の抜け穴を使ったような節税や、法律が意図していないような使い方をして税金を逃れようとするような行為といえます。
租税回避をやったとしても基本的に法で裁かれるようなことはないのですが、国税としては威信にかけてつぶしにかかってきます。
その典型例が先ほどの武富士事件なのですが、このケースでは香港に住所があったので形式的には合法なのですが、本当に住んでいたのかとか、そもそも住所って何??というような、チコちゃんに叱られそうな疑問を提起して潰しにかかってきました。
グレーゾーンではあるけど、国税的には黒にしたい、そんな話もあるわけです。武富士事件は国税が敗訴して多額の還付金と還付加算金を支払う結果になりましたが・・・
お金を持っているからと言って幸せとは限らない
資本主義的な発想からいうとお金をたくさん持っているほど幸福感があがらないといけないのですが、現実問題としてそうはならないようです。だからこそこの本のように人間ドラマがうまれてくるわけなのですが、ノンフィクションですから事実は小節より奇なり、というところでしょう。
相続税の回避のために海外で5年、10年とただ何もすることなく過ごす資産家、この本では最終的に事件に巻き込まれたり、横領されそうになったり、ということもあったりしますが、海外生活での孤独に耐え切れず、というような展開になります。
最後の楽園で得るものは退屈と孤独というステージなのですが、それでもお金持ちになりたいですか??というのが問題提起として浮かび上がってきます。
資本主義的な幸せ論ではなく、貧乏でも人と人のつながりや地域コミュニティでの居場所のようなものが大事なのかもと考えさせられます。自分なりの結論はそこそこでいいねってことですが、今のところ金持ちになる予定はないので大丈夫そうだ(笑)